ヒンドゥー教は、インドやネパールで多数派を占める宗教です。信者はインド国内で8億人、その他の国の信者を合わせると約9億人とされています。実は、キリスト教、イスラム教に続いて、世界で三番目に人口が多い宗教です。インド社会は古代インドのバラモン教と民間信仰が融合しながら形づくられた歴史があり、ヒンドゥー教=インド教と言われています。今回は、ヒンドゥー教がインド社会にどのように根付いているのか、7つの例を使って詳しくご紹介します。
インド社会で宗教(ヒンドゥー教)が担う大切な7つの役割
1. 多神教に見えるが根本は「唯一至高の存在」
インドを訪れると、多種多様な神様がいるので、多神教と見られる側面もあります。しかし根本的には、それらの神々は独立して存在するのではなく、「宇宙そのものである唯一至高の存在」が個々の神格の形をとって現れたものと考えられています。ヒンドゥー教は特定の開祖や聖典を持たず、教団として組織されてもいませんが、共通点としてあるのは、この「唯一至高の存在」への信仰です。
宇宙の根本原理・万物の本体である「ブラフマン」と、自我の本質「アートマン」との一致に達する事、つまり輪廻から解脱することを理想に掲げます。日常生活でも特有の儀礼、風習を続けることを法(ダルマ)としています。
2. 生活の中に溶け込む神々
宇宙の根本原理「ブラフマン」は抽象概念で表されますが、寺院などには一般の人々が神をイメージしやすいように、有形で表現されています。私たちがインドで見かけるのは、極彩色で描かれた多様な神様です。ヒンドゥー教の神々は、恋をしたり、争ったり、嫉妬して呪いをかけたり、人を騙したりと人間的に描かれ、他宗教と比べると人間臭く、親近感がわきます。
路地裏にもたくさんの神様の祠があります。街角では神々の絵が極彩色で描かれたポスターやキーホルダーなどが販売されており、家、職場、学校、車やバイクなど生活の身近なところに飾り、日々祈りを欠かしません。
3. カーストの考え方
ヒンドゥー教特有の社会身分制度は「カースト」と呼ばれていますが、これはインド人にとっては外来語です。「カースト」とは、「ヴァルナ」と「ジャーティー」の総称とされています。
「ヴァルナ」は肌の色による人種の区分けで、「色」という意味です。ブラフマン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラ、以上の階級に属すことができないアウトカーストと分けられます。「ジャーティー」は、生まれを同じくする集団で、職業は基本的に世襲制です。
カーストを変えることはできませんが、現世の結果によって来世で高いカーストに上がることができるとされています。現在のカーストは過去の生の結果であるから、受け入れて現世を生きるべきだという考えです。 なお、カースト制度による差別は1950年に憲法で禁止されておりタブー視されていますが、いまだ深く社会に根付いていると言われています。
4. 食事の規制
ヒンドゥー教では、食事の規制事項があります。肉食と菜食は厳格に区別されており、高位のカーストや社会的地位の高い人ほど肉食を避ける傾向にあります。牛は神聖な動物として崇拝されていますので、牛肉は食べません。街では牛が堂々と闊歩しており自由に過ごしています。時々屋台の食べ物を盗み食いして怒られたりしています。ちなみに、インドにはイスラム教徒もいますが、イスラム教徒は豚肉を食べません。こうした理由から、肉料理には、鶏肉、羊、ヤギ肉を使います。穢れ(けがれ)に対する意識が強く、食べものを含め、他者の穢れが接触することを避けます。したがって、食器は使い捨てのものが最も清浄だと考えられています。
5. ガンジス川は神であり、ヒンドゥー教徒が最期に目指す場所である
ガンジス川はガンガーと呼ばれる女神として神格化されています。川沿いにはヒンドゥー教の聖地が点在しており、中でも、最大の聖地はバラナシです。ガンジス川での沐浴は罪を洗い流す、浄化されるとされています。そのためにこの地を目指し巡礼してくる教徒も数多くいます。死者を川岸で火葬し、灰をガンジス川に流すことが、ヒンドゥー教徒が理想とする死とされています。お墓や霊園はありません。子供、妊婦、事故死、疫病死の場合はそのまま水葬されます。
川はそのまま生活用水としても用いられています。熱心に祈りを捧げる真横で、歯磨きや洗髪、洗濯などの日常生活が繰り広げられている様子は、度肝を抜かれます。最近では汚染対策が課題事項に挙げられています。
6. 身体に関する決まり事
右手=食事のとき、握手などに使う「浄」の手。食事の際は右手を主に使い、手で食べますが、観光地はフォークやナイフなどもテーブルに用意されています。左手=トイレなどは左手を使います。トイレには、手桶とバケツが置いてあり、お尻を左手でちゃちゃっと洗います。
額=ヒンドゥー教の女性の額にある赤いマークは、ビンディといいます。昔は額に赤い粉をつけていましたが、今はさまざまなデザインのシールがお店で販売されています。もともとは既婚の女性がつけるものですが、今はファッションの一部となっています。ヒンドゥー教では、額は人間の中枢であり、神聖な場所と考えられています。
髪の生え際=また、既婚者の印として、赤い粉を髪の生え際の分け目につけていることもあります。これはシンドゥールと呼ばれ、本来、結婚式で新郎が新婦につけるものです。頭=子供の頭には神が宿るとされており、頭を撫でることはタブーとなります。
7. 神は歌い踊る。人も神のために歌い踊る
インド人は歌と踊りが大好きです。ヒンドゥー教徒にとっての歌と踊りは、祈りの行為と通じています。ヒンドゥー教の神々も踊りが大好き。宇宙の破壊を司るシヴァ神は、世界が終わりに近づくと、踊ることで破壊をもたらし、その後再び宇宙を創造します。象の頭部をもつガネーシャ神が踊ると夜空に星が散りばめられます。恋多き好色の神クリシュナは恋人と踊ります。
古代の人々は、自然の力の象徴とされる神々に対し、祈りをこめた歌や踊りを捧げてきました。そして、ヒンドゥー教の寺院では、神が存在する場所として歌と踊りが欠かせないものとなりました。神話や伝説を解説して歩く語り部も存在し、そこに歌や踊りが盛り込まれ、のちの古典劇や民衆演劇の原型が形成されました。宗教的な祈りや物語と一体化した歌と踊りは民衆の生活にも組み込まれていきます。インド映画が歌と踊り満載なのも納得します。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ヒンドゥー教はインドの社会に深く根ざした宗教で、ヒンドゥー教を知ることがインドを知ることに直接繋がります。日本人はインド人ほどの強い宗教心を持っている人は少ないかもしれませんが、実は日本との共通点もたくさん見つかります。インドに膨大にいる神様は、日本で言う「八百万の神」に通じるものがありますし、仏教の釈迦はヒンドゥー教ではヴィシュヌ神の化身のひとりとされていたりします。共通点から理解を深めていくのも面白いですね。
インド社会で宗教(ヒンドゥー教)が担う大切な7つの役割
1. 多神教に見えるが根本は「唯一至高の存在」
2. 生活の中に溶け込む神々
3. カーストの考え方
4. 食事の規制
5. ガンジス川は神であり、ヒンドゥー教徒が最期に目指す場所である
6. 身体に関する決まり事
7. 神は歌い踊る。人も神のために歌い踊る