サッカーや野球での日韓戦の盛り上がりや、オリンピックやアジア大会における韓国人選手の活躍を通じて、韓国はスポーツ大国というイメージを持つ人が多いかも知れませんが、根本的に韓国のスポーツ教育は日本の捉え方とは大きく異なります。ひと言で言い表すと、「徹底的なエリート養成主義」という感じでしょうか。韓国はある意味で才能と素質のある人だけが本気でスポーツを続けることができる社会です。日本のように裾野を広げるという意味で、数多くの草野球チームやアマチュア選手が存在しないのが韓国スポーツ界の特徴でもあります。今回は、韓国がスポーツ教育に力を入れる理由とその背景について詳しくお伝えします。
韓国がスポーツ教育に力を入れる6つの理由とは?
1. 5000万の人口、勝つための戦略は?
韓国の総人口は約5000万。日本の半分以下です。少ない人口と限られた施設、予算を最大限に活用し、最善の結果を引き出そうというのが、韓国におけるスポーツ教育の究極の目標です。スポーツ人口を幅広く増やし、のんびりと裾野を広げ、じっくりと才能ある人材を発掘してコツコツ育てていく日本の方法とは異なり、韓国のスポーツ界はあくまで最も効率的な方法で、実力ある選手を無駄なく育てる方法がベストという考え方が主流です。例えば日本の高校野球加盟校は4000校以上ですが、韓国の高校野球部は全国でわずか67校。草野球チームもほとんど存在しません。ただ野球が好きという理由だけで野球を続けることは難しく、実力を認められプロ選手としての可能性がある者だけが野球を続けられるのです。
2. 英才教育は国策
韓国には才能が優れた者を早期に発掘し、生まれ持った潜在力を花開かせるべき…という英才教育を支持する考え方が根強く、これはスポーツにおいても同様です。従って趣味でのんびりスポーツを楽しみながら続ける…という選択がなかなか難しい社会とも言えます。政府としてもスポーツ英才教育を推進しているため、韓国の教育庁には英才教育院という機関が存在し、小学校時代からスポーツ分野の英才を少数精鋭で早期育成する事業を国策として運営しています。小学校のうちから才能ある子供だけが一部の「学校運動部」に所属し、専門的なコーチによる指導を受け、中学生以上になると学校の授業よりもトレーニングを優先する…という姿も珍しくありません。選ばれた人材に対しては充実した施設と指導者、最先端の科学的トレーニングが与えられ、プロとしての進路を視野に入れ、日々練習に励むのです。
3. 超エリート主義志向
学校に日本のような部活動がほとんどない韓国では、幼い頃からスポーツも習い事の一つとして民間のスクールやスポーツ塾に個人で通うのが一般的です。例えば小学校の体育の授業だけでは圧倒的に運動量が足りずレベルも低いため、多くの子供が水泳、テコンドー、サッカー、バスケットボール、バレエ、スケート等のスクールに通っています。しかし勉強の競争が厳しくなる中高生になると、学校の体育授業はますます軽んじられ、スポーツ塾に通う子供の数も圧倒的に減ります。つまりこの時期からは、選ばれた子供だけがトップアスリートを目指して特定のスポーツに集中するような環境が出来上がってくるのです。エリート主義志向の強い韓国では、スポーツであれ、音楽や美術であれ、プロを目指す人材は早くから世界最高レベルを目指して邁進するため、趣味で楽しむ人々とはケタ違いの開きが生じるのが当然なのです。
4. プロになるか、あっさり辞めるか
スポーツを続けさせるかどうかの選択は、プロとして生きていくか否かの選択です。趣味として細々と続けるという呑気な選択をする人はおらず、大抵は小学校高学年から中学生の時期に、アスリートとしての進路を決定します。どうせ続けるならトップを目指せ!というのが韓国的思考で、スポーツでトップになれないのならあっさり辞めて勉学だけに励んだほうが良いという、黒か白かの選択という感じです。中高生になってもスポーツを趣味で細々と続ければいいのに…と思うかも知れませんが、熾烈な受験競争のある超学歴社会の韓国では、スポーツ推薦で大学にも入れず、スポーツを職業としないのなら、あとは勉強するしかない!という考えが一般的です。中高生になると学校の体育授業さえ無駄な時間と受け止められることが多く、一般校の中高生が本格的なスポーツを体験する機会は非常に限られています。
5. 親の献身と経済力
韓国でスポーツ選手として成功した人たちの共通点に、親の献身と経済力があげられます。教育熱の高い韓国では、子供の将来は親の献身と情報、経済力にかかっていると言われ、特にスポーツや芸術の分野では家庭でのサポートが必須のようです。親がマネージャー代わりになって子供と共にゴルフ留学に行ったり、海外にまでスキーやスケートを習いに行ったり、実力ある指導者の個人レッスンを受けるために大金を払うことも珍しくありません。つい最近も筆者の娘(小4)の同級生が、母親と一緒にオーストラリアへゴルフ留学に旅立っていきました。
6. メダル獲得後のご褒美
余談ですが、韓国のスポーツ選手がアジア大会で金メダル、オリンピックで金、銀、銅メダルを取った場合、兵役免除という魅力的な特典があります。どれほど有名な芸能人や世界的なスポーツ選手であっても、韓国人男性である限り、兵役義務を逃れることはできないので、これはとても大きなモチベーションの一つです。兵役免除の他、国際大会で優秀な成績を収めた選手に対しては、実績に応じて生涯年金を支給するという特典もあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
総人口が少ない韓国が国際大会等で良い成績を上げるためには、「少数精鋭、選抜と淘汰」という現在のシステムが最も効率的であることは否定できませんが、日本のように様々なスポーツを日常の中で気楽に楽しむことが難しいため、育ち盛りの中高生が机に噛り付いて勉強するか、勉強もせずにスポーツに明け暮れるかという究極の選択しか出来ないという現実はとても残念なことです。プロにならなくてもスポーツを通じて学べることは多いはずですが、今の韓国社会にはまだその余裕がないのかも知れません。ここ数年、韓国スポーツ界の古い体質を変えるべきという変革への声が高まっているので、今後は強いスポーツだけではなく、スポーツを楽しむ風潮が韓国でどんどん広がっていくことを願っています。
韓国がスポーツ教育に力を入れる6つの理由とは?
1. 5000万の人口、勝つための戦略は?
2. 英才教育は国策
3. 超エリート主義志向
4. プロになるか、あっさり辞めるか
5. 親の献身と経済力
6. メダル獲得後のご褒美